中国で〈掃除(そうじよ)〉ははらいぬぐうという意味で,類似語に掃地(そうち)(地面を掃ききよめること),掃洒(そうさい),掃灑(そうさい)(ともに,掃いて水を注ぐこと)などがある。日本でも掃除という言葉は平安時代ごろから文章語としては多少使われているが,日常語としてはほとんど使われず,もっぱら〈きよめ〉とか〈はく〉が使われていた。このうち〈きよめ〉のほうが掃き拭(ふ)きを総合した意味をもっていたようである。掃除が日常語になったのは比較的新しいことらしい。掃除用具には,ほうき,ちりとり,はたき,雑巾などがある。このうち,ほうき,ちりとりは古くから使われたが,はたきは江戸時代になってからである。雑巾も古くは棒雑巾で,手で拭く雑巾が主になったのは室町ごろからのようである。棒雑巾は長柄の先端に30cmほどの横木をつけ,ここに長さ50cmくらいの布をとりつけたもので,鎌倉時代ごろまでは室内の拭き掃除にはこの棒雑巾がおもに使われていた。はたきもなく,そのかわりに鳥の毛で作った羽根ぼうきや笹竹などでちりほこりを払い落としていた。これが室町ごろから手で拭く雑巾がおもに使われるようになり,江戸時代になって,小竹の先に裂いた紙や絹を結いつけたはたきが登場した。これは住宅のつくり方の変化によるもので,鎌倉時代ごろまでは板敷住宅(寝殿造)であったために棒雑巾のほうが便利だったのである。それが中世から近世にかけて書院造となり,畳敷きがふえ板の間が少なくなったために,手で拭く雑巾のほうが使いやすくなり,また長押(なげし)や舞良戸(まいらど),明障子(あかりしようじ)など桟のある建具が多くなり,はたきも考案されたと考えられる。しかしはたきとよばれるようになるのは明治になってからで,江戸時代には〈采払い〉〈ちり払い〉とよんでいた。
掃除といえば年一度の大掃除,煤(すす)払いも重要である。〈煤掃き〉という語がすでに927年(延長5)完成の《延喜式》に見える。《延喜式》では12月晦日とされているが,鎌倉から室町には日は一定せず吉日を選んで行った。江戸初期には12月20日とされたが,4代将軍徳川家綱のときに13日に定めたので,民間でも13日の煤払いが恒例となった。このとき天井などのちりを払うのにむいた枝葉のついた笹竹を煤竹といい,煤竹売が呼び歩いた。また地方により煤男といって長い竿(さお)にわらのぬいごを束ねて結びつけたものも使った。煤払いは江戸時代から明治にかけては大事な年中行事となっていたが,大正,昭和と一般の生活様式や習慣が変化するにしたがってしだいに日も一定しなくなり,呼名も〈大掃除〉となった。それでも昭和初期ごろまでは各町内ごとに大掃除の日を定めていたが,第2次大戦後はこれも行われなくなった。現在は掃除用具も電気掃除機などに移っている。
執筆者:小泉 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
快適な生活をするため、ちりを取り除いて住まいの内外を清潔にすること。また持ち物の整理や家屋の手入れのほか、室内を趣味よくしつらえて、子供の教育の場としての家を整えることなどもこれに含まれる。古来日本の家屋は、木、竹、紙から成り立ち、主として植物性の食物に依存してきたため、汚れの質が軽い。したがって、ほうきで掃く、はたきをかける、あるいは雑巾(ぞうきん)で拭(ふ)くなど、また洗剤としては灰汁(あく)を用いる程度で汚れを取り除くことができた。これに対し西洋の住居は、その材質から通風も採光も悪く、石炭暖房による煤(すす)や灰、牧畜民族であることから家畜の処理やソーセージなどの薫煙作業など、汚れが重質性であった。さらにヨーロッパ大陸は地続きであるため、ペストやコレラなどの伝染病が非常に早く広がった。そこで、これらを防ぐためには徹底的な掃除が必要であり、早くからアンモニア、塩素、有機酸、アルコールなどの化学薬品を使った掃除法が研究され、発達してきた。18世紀のイギリスでは、すでに現在とほとんど変わらない掃除法が行われていた。
日本の場合は、文明開化のころから生活様式の洋風化が始まったが、本格的な洋風式の掃除は第二次世界大戦後である。つまり、掃除用合成洗剤が1960年(昭和35)に発売されて以来のことである。現在では酸、アルカリ、溶剤、塩素などの使用が普及して、ほぼ国際水準に近い掃除ができるようになった。
また、昔からの風習として大掃除がある。普通、春か秋、または年末に、地区ごとに一斉に行われることもある。
[西川勢津子]
字通「掃」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…中国で〈掃除(そうじよ)〉ははらいぬぐうという意味で,類似語に掃地(そうち)(地面を掃ききよめること),掃洒(そうさい),掃灑(そうさい)(ともに,掃いて水を注ぐこと)などがある。日本でも掃除という言葉は平安時代ごろから文章語としては多少使われているが,日常語としてはほとんど使われず,もっぱら〈きよめ〉とか〈はく〉が使われていた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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